パリ同時多発テロ

 2015年11月14日,パリで同時多発テロが発生し,多くの死傷者が出た。犠牲になった方々のご冥福をお祈りし,傷つき苦しんでいる多くの方々と,その方々につながるみなさんに哀悼の意を表したいと思います。

 

 パリは私が2回目の海外旅行に行った場所であり,人生で初めて社会調査の真似事をして,小さな論考を執筆した地です。その地でこのような出来事が生じ,悲しみと怒りと恐怖を感じます。悲しみに打ちひしがれ,怒りと,さらなる攻撃に対する恐怖にさいなまれているパリで暮らす方々と連帯したいという気持ちもあります。

 

 しかしながら,「断固としてテロと戦う」といった論調には違和感を感じます。そもそも「テロ」は心性であり,どれほど空爆を繰り返しても,心性を根絶やしにすることなどできません。むしろ,怒りや苦しみをもつ人々をさらに大量に作り出すことになると考えます。またどれほど警戒レベルをあげても,国境を封鎖しても,テロ行為を未然に防ぐことはできないだろうと予想します。

 

 この困難な時代を,私たちはどう生き抜けばよいのでしょうか。私は,テロ行為に向かう人々がもつ苦しみに,私たちの意識を向ける必要があるのではないかと考えています。テロ行為に向かう人々が,どのような苦しみを,なぜ抱くに至っているか。この苦しみを軽くし,和らげ,なくすことを考えるべきではないかと考えます。そのためには「欧米と連携して断固としてテロと戦う」のではなく,まず,「テロ行為に向かう人々の苦しみ」を知るべきだと思います。

 

 そのために役に立つのは読書です。役立つ書物は数多ありますが,短時間で読むことができる文献として,3点お勧めしたいと思います。

 

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池内恵『イスラーム国の衝撃』文藝春秋,2015年

 イスラーム国とはどのような存在か。ジハードとは何か。カリフとは何か。このような私たちの疑問に答えてくれるのが本書です。

 

高橋和夫『イスラム国の野望』幻冬舎,2015

 高橋和夫先生は,私が放送大学に勤めていた時,ご一緒させていただいた先生です。その頃から,中東アジアの一線級の専門家として有名な方でした。この本で高橋先生は,イスラム国のメンバーが,「イギリス・フランスが作った体制に牙を剥き,イスラム世界の統一を願うのは,けっして荒唐無稽なことでも誇大妄想でもありません。」(p.126)と述べています。それがなぜなのかを,分かりやすい平易な言葉で述べられています。

 

中田考『イスラーム 生と死と聖戦』集英社,2015年

 中田さんはイスラム法学者です。イスラム法学者という目から見た時,イスラム世界はどのように見えるのか。それを描いたのが本書です。

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 怒りは苦しみの表現でもあります。苦しみを軽くし,和らげ,なくすことにより,怒りの連鎖を断ち切ることを目指すべきだと,私は考えております。