2024年度の研究テーマは以下のとおりです。

 

(1)社会空間構造分析

 科研費基盤研究(A)「人口減少社会における格差拡大の進行過程とその社会的帰結に関する研究」(研究代表者:浅川達人、2024年度〜2027年度)が無事採択されました。この研究プロジェクトは、研究対象地域を「東京圏、名古屋圏、京阪神圏の3つの大都市圏を内包する地域」へと拡張し、社会地図・量的調査・質的調査という3つの調査研究方法を用いるトライアンギュレーション(マルチ・メソッドアプローチ)を採用していることに特徴があります。

 

【これまでの研究概要】

 1975年から1990年までの東京大都市圏を対象として,社会構造と生活構造を可視化する社会地図と,複数の社会地図の背後に潜在する構造を探るKS法クラスター分析を用いて分析する。そして,少子高齢化・脱工業化・グローバル化といった社会変動の中で,東京大都市圏の社会空間構造がどのように変化したのか,その変化の方向を記述したのが『新編東京圏の社会地図1975-90』(倉沢進・浅川達人編)でした(この本は,第4回日本都市社会学会賞(磯村記念賞)を2005年9月6日に受賞しました)。

 上記の研究は,東京大都市圏をヘリコプターから眺めるようなマクロな視点から行われました。それに対して,東京大都市圏のそれぞれの地域社会で展開されている日常生活世界を,生活者の視点から描き出す研究がコミュニティスタディであり,いわばミクロな視点からの研究ということになります。東京大都市圏の社会空間構造の変化の中で,京浜工業地帯というコミュニティがどのように変容したのかを分析したのが『東京大都市圏の空間形成とコミュニティ』(玉野和志・浅川達人編)です。

 その後,1990年から2000年の変化を分析した論文が「東京圏の構造変容―変化の方向とその論理―」(『日本都市社会学会年報』vol.24 2006年,pp.57-71)であり,東京大都市圏の各地域社会がそれまで持っていた各々の特徴が薄れ,都心からの距離という経済的な要因によって各地域社会が特徴付けられる傾向が強まったことを指摘しました。また, 2000年から2010年の変化の方向と要因を探ることを目的として,2014年のISA横浜大会において社会地図を用いた報告を行いました。

 そして,1990年から2010年までの社会空間構造の変化を,縦断的に分析し,東京大都市圏の社会空間構造の変容を検討しました。その結果は,英文雑誌で報告しました(Tatsuto ASAKAWA, 2016, Changes in the Socio-Spatial Structure in the Tokyo Metropolitan Area: Social Area Analysis of Changes from 1990 to 2010, Development and Society, Vol. 45, No. 3, 2016, pp.537-562)。

 また、1990年から2010年までの社会空間構造の変化については、『格差社会と都市空間 東京圏の社会地図1990-2010』(橋本健二・浅川達人編)として2020年に出版しました(この本は、日本都市社会学会賞(磯村記念賞)を2021年9月11日に受賞しました)。そして、これまでの研究成果をまとめつつ、教科書として使えるようにアレンンジした『都市を観る:社会地図で可視化した都市社会の構造』(浅川達人、春風社)を2022年2月に出版しました。

 

(2)FDs研究

 近年日本で深刻化しているフードデザート(食の砂漠,Food Deserts)問題を社会学,地理学および栄養学の視点から学際的に分析するとともに,問題解決に向けた提言を行うことにも取り組んでいます。この研究は,茨城キリスト教大学の岩間信之先生を研究代表者とする研究グループにおいて行っており,私は社会空間構造とFDsとの関連の分析を担当しています。こちらも、科研費基盤研究(B)「外国にルーツのある子どもの成育環境と健康被害に関する地理学的研究」(研究代表者:岩間信之、2024年〜2028年)が採択されました。

 

【これまでの研究概要】

 2015年度は,茨城県牛久市を対象地域として2013年度に行った大規模な配票調査のデータをマルチレベル分析を用いて解析し,問題解決に向けた提言ができるよう研究を深化させます(この研究は,シンフォニカ統計GIS活動奨励賞(2012年2月14日)を受賞しました)。

 2017年度より,各商店の充足度調査を加味した新しいフードデザートマップの作成と,充足度を加味したアクセスとSocial Capitalが食品摂取多様性得点にどのような影響を与えるかを,マルチレベル分析によって捉えることを試みています。この分析結果については,『フードシステム研究』に論文が掲載されました(「近年の研究業績」ページをご参照ください)。

 

(3)被災地復興支援活動

 東日本大震災が引き起こした大津波によって,住民の約1割が死者・行方不明者となるという甚大な被害を受けた岩手県大槌町。この地域にある吉里吉里という集落を,2011年4月以来定期的に訪問し,復興支援活動を行ってきました。社会学者として復興支援活動にどのような貢献ができるか,被災地の復興を社会学はどのように捉えることができるのか。そのことを念頭において,研究を進めてきました。

 吉里吉里在住の藤本俊明さん,岩手大学の麦倉先生,早稲田大学の野坂さんと一緒に企画し実施した,「大槌町災害復興公営住宅調査」については,最終報告書ができあがりました。本WEBサイトの「調査報告書」ページからダウンロードできますので,ご覧ください。

 「東日本大震災から10年ー復興の現状と統計」というESTRELAの特集に、論文を寄稿しました。「近年の業績」ページをご参照ください。

  

(4)都市計画制度の成果と形成過程

 首都大学東京の饗庭先生を研究代表者とする研究グループにおいて,東京23区を対象として,都市計画がどのような意図で策定され,どの程度実現され,どのような社会空間構造ができあがったのかを研究しています。私は500mメッシュ(4次メッシュ)を表章単位として主題図を作成し,社会空間構造を明示することを担当しています。これまでの研究成果の中間報告をまとめたWEBサイトが公開されました。こちらからご覧ください。