2015年4月より,質的データ分析(QDA: Qualitative Data Analysis)のために,MAXQDAというソフトウエアを使い始めました。使用開始からあまり経っていませんが,使用方法にも慣れてきましたし,何が実現できるのかもわかり始めてきました。まずは「研究室news」のサイトで速報し,「研究室」サイトで情報を蓄積したいと思います。
(1)質的データ分析とは
インタビュー結果を文字起こしした文章や,フィールドノート,新聞記事,誰かが書き残した手記や手紙などの,定量的に捉えることができない「質的データ」をどうやって分析するか。質的データ分析においては,数量的なデータ分析方法のように,統計的検定などの標準的な手法があるわけではありません。
ある程度標準的な手法を確立しようという狙いで,GTA(Grounded Theory Approach)が開発され,その修正版である,M-GTA(Modified Grounded Theory Approach)が開発されました。ただしそれらの手法においても,「標準的な手法」では捉えることが困難な「定性データ」を扱うがために,分析に当たっては分析者の解釈が重要な位置を占めることになります。
(2)MAXQDAとは
この分析過程を,ソフトウエアでアシストしようというのが,MAXQDAというソフトウエアです。MAXQDAは上の写真のように,4つのWindowによって構成されています。
左上のWindowが「文書システム」。分析で用いるデータを管理します。フィールドノートやインタビュー結果など複数の文書を読み込み,このラックに格納します。
右上のWindowが「文書ブラウザ」。現在読み込んでいる文書を,ワープロ画面のように表示します。
左下のWindowが「コードシステム」。文書ブラウザに表示されている文書,すなわちデータを分析していくのが,この「コードシステム」です。
右下のWindowが「検索済セグメント」。上の写真では何も表示されていませんが,ここには検索結果が表示されます。
(3)MAXQDAの特徴
このように4つのWindowによって,「データ」と「分析結果」を同時に一覧できるということが,特徴の一つです。質的データ分析においては,データの収集が,数量データ分析のように1回の調査で終了するということはありません。分析結果をみながらデータの収集と分析を繰り返す必要があります。
一覧ができないとどうなるか。分析過程において,分析者に強く印象に残った事象に,分析結果が引きずられてしまうというようなことが,しばしば起こりがちです。「データ」と「分析結果」を常に同時に一覧できるということは,分析者の恣意的な解釈を回避する上で必要不可欠なことなのです。
では実際にどうやって,分析を進めるのか。次のセクションで説明します。
(2015年6月4日)
(4)分析:コードを割り振る
質的データ分析における「分析」とはどのような試みなのでしょうか。数量データ分析とのアナロジーで説明すると,それは「アフターコード」にあたります。
「アフターコード」とはどのような試みか。数量データ分析のデータ収集の方法である質問紙では一般的に,尋ねたい内容を事前にコーディング:プリコーディングしています。ただし,調査者にも想定できない回答があり得るので「その他(具体的に)」として自由記述を求めることがあります。自由記述はそのままでは分析できないので,似通った内容の記述に「コード」を割り振ります。これを「アフターコード」と呼びます。
分析の対象としている文書を読みながら,事後的に「コード」を割り振る(アフターコードする)。これが質的データ分析における「分析」作業であり,それを担当するのが「コードシステム」Windowです。
(5)検索済みセグメント
文章を読みながら,コードを割り振りたい部分(これを「セグメント」と呼びます)に,適切な「コード」を割り振ります。手作業でコーディング(コードを割り振る作業)を行う場合,どのセグメントにどのコードを割り振ったのかは,カードを用いて記録することになります。すなわち,1枚のカードにひとつのセグメントを抜き書きし,そこに割り振ったコードをメモするのです。
MAXQDAの場合,割り振ったコードは全て「コードシステム」Windowに表示されます。また,あるコードがある文書の中でどのセグメントに振られているかを検索することができます。検索結果は,右下のWindow「検索済みセグメント」に表示されます。コードはセグメントを抽象化したものですから,同一のコードが複数のセグメントに振られることになります。そのため,当該文書の中であるコードがどのようなセグメントに振られているか検索すると,複数のセグメントがヒットすることになります。
それらの複数のセグメントが「検索済みセグメント」Windowに表示されます。カードを用いた分析でも,この検索までは実現可能です。しかしながら,検索されたそのセグメントが,もともとどのような文脈で語られていたかを表示することはできません。
MAXQDAはそれが可能です。「検索済みセグメント」Windowに表示されたセグメントをクリックすると,当該文書からそのセグメントを探し出し,「文書ブラウザ」内に表示してくれるのです。
(6)データ収集と分析を繰り返す
このように,「文書ブラウザ」Windowに表示される文章をみながら,セグメントにコードを割り振ると,割り振られたコードは「コードシステム」Windowに表示されます。すべてのコードとすべてのセグメントはひも付けられており,そのペアは「検索済みセグメント」Windowに表示することができます。このWindowに表示されたセグメントをクリックすると,そのセグメントがオリジナルの文書のどこにあったのかを,「文書ブラウザ」が瞬時に示してくれます。
生成したコードが,収集したデータについて必要かつ十分なのかを吟味する作業を,「文書ブラウザ」「コードシステム」「検索済みセグメント」の3つのWindowが支援してくれるのです。
KJ法でもM-GTAでも,生成されたコードをどのようにまとめるのか(分析するのか)が課題となります。コードの分析に有用なツールについて,次のセクションで説明します。
(2015年6月5日)
コードの分析には,「図解ツール」を援用することができます。MAXQDAには複数の図解ツールが装備されていますが,その中から2種類の図解ツールについて説明します。
(1)コード間関係ブラウザ
各セグメントには複数のコードが付される場合があります。そこで,分析に当たっては,どのコードがどのコードと一緒に付されることが多いのかを知ることが必要となります。
その場合に便利なのが,上の図(左)が「コード間関係ブラウザ」です。作成したコードの全てを表頭と表側に表示することができ,同時に付されている組み合わせを点(ドット)で表現しています。
ドットの大きさは,一緒に付されている回数を表しており,ドットが大きいほど回数が多いことを示しています。ドットではなく,回数を数値として表示することも可能です。また,このドットをダブルクリックすると「検索済セグメント」ウインドに,そのコードが付されているセグメントが表示されます。さらに,そのセグメントが各文書の中のどの部分に位置したのかを知りたい場合は,「検索済セグメント」ウインドの左側から選択すると,「文書ブラウザ」に当該のセグメントが表示されます。
(2)コードマトリックス・ブラウザ
作成したコードが,どの文書において,どの程度出現しているか,その頻度を表しているのが,上の図(右)の「コードマトリックス・ブラウザ」です。ここでも,出現頻度はドットの大きさによって表現され(もちろん,数値として表示することも可能です),ドットをダブルクリックすると「検索済セグメント」ウインドに,そのコードが付されているセグメントが表示され,そのうちひとつを指定すると,「文書ブラウザ」にそのセグメントが表示されます。
このように,コード間の関係をクロス集計や相関マトリックスのように分析することができますし,収集した文書とコードの関係を分析することも可能です。これらのツールを使いながら,コードを付け直したり,コードの名称を変更しつつ,分析を深めていくのです。これらのツールを用いると,セグメントといった「一部」に着目しながらも,文書そして文書をまとめたデータベースといった「全体」に同時に着目できるため,分析者の印象に残ったセグメントに引っ張られるという恣意的な解釈を,できるだけ回避することができるのです。
(2015年7月8日)